2004年09月11日
薬菜飯店
著者:筒井 康隆
出版社:新潮社
価格:¥ 420
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:5
爽快
一日であっという間に読んでしまいます。とにかく、面白い。ただの娯楽って感じでお気楽な内容ですね。えぐい話もあったけど・・・。
お勧めランク:5
記憶に残り続けるであろう話たち
「薬菜飯店」行ってみたいなこんな店。いや他の客が居たら怖いか。昭和62年発表作品。
「秒読み」。タイトルや話の筋立てから、まんまSFショートショートの凡百の作品の一つとして読み飛ばしてしまいそうだった。
しかし、最後の4行でこれからもずっと私の記憶に残る作品になってしまった。昭和59年発表作品。
「偽魔王」。逆説的な物言いになるが「自分の中の正義の心が悪魔によって満たされる」ような感覚が、氏独特のスピーディーな文体でスリリングに読める作品。昭和63年発表作品。
「カラダ記念日」。くやしいことに私は俵万智著「サラダ記念日」を読んでいない。それでも面白い。でも本歌を知っていればナオサラダろうなぁ。
お勧めランク:4
カタルシス小説
薬膳,こりゃうまそうだ,料理小説か,俺も腹減ってきた・・・・などと思いつつページを繰っていくと,突然始まる排泄の嵐.汚いはずなのに,読んでいる方も何故か浄化されていく感覚.これは料理小説などではない,カタルシス小説だったのだ.
排泄も極めれば快感となるように,スプラッタ・ホラーですら極めれば快感となる.・・・「極まった」小説が集まった短編集である.
詳細...
あなたをこれまで決して味わった事のない爽快な体験に案内する、究極の料理小説「薬菜飯店」。不思議な味わいの川端賞受賞作「ヨッパ谷への降下」や懐かしい味わいの「秒読み」、ファミコンの悪魔が子供に憑依する「偽魔王」など傑作短編6編。それに「サラダ記念日」を本歌どりした過激なパロディ短歌「カラダ記念日」を収録。鬼才が腕によりをかけた短編特別メニュー。解説俵万智。
目次
薬菜飯店
法子と雲界
イチゴの日
秒読み
ヨッパ谷への降下
偽魔王
カラダ記念日
2004年09月10日
チェルシー・テラスへの道〈上巻〉
著者:永井 淳
出版社:新潮社
価格:¥ 780
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
チェルシー・テラスへの道
アーチャー得意のサーガ物である。いつもは比較しているのだが、比較というのはあまりない。ただ、色んな視点からストーリーを続けていくのは面白い。
ロンドンの田舎に生まれた主人公チャーリーは死んだ祖父を継ぎ、手押し車を片手に野菜の商売を始める。夢は、チェルシー・テラスに自分の店舗を全て並べること。幼なじみのベッキーやその友人ダフニなどとの、長い夢への旅路である。チャーリーやその他の経営者の視点からストーリーは繰り広げられていく。
チャーリーは第一次世界大戦にも出征する。そこで生涯の敵となるトレンザム大尉と会う。それに伴って、後に経営を共にするハミルトン中佐とも出会うことに。最初はそれこそ貧相なものだが戦争を終えてから店は充実していく。あくまでもチャーリーの夢物語であるから苦労もする。ミセス・トレンザムの妨害にもあうが、逆に戦略で陥れたり。色々な要素がつまった面白い作である。それ故飽きさせずに読ませてくれる。
ストーリーにまだ深みはない。上巻は淡々と言えばそうでもある。
お勧めランク:5
成り上がりの王道
著者は、この本に代表されるような「なりあがり」の物語を多く書いているが、その中でも傑作の1つと思われる。
子供のころから、上り詰めるまでの過程が描かれ、まさに娯楽小説ではあるけれども、自己を鼓舞させてくれるようなアツサがある。
恋愛、裏切り、他者との齟齬などあり、全く飽きさせないで、一気に描かれる。ロンドンが舞台。
お勧めランク:4
高級商店街を買収して高級デパートを築いていく成功物語
ロンドンの下町で貧しい野菜売りの家に生れた主人公が、祖父から譲られた手押車を唯一の資本に商売を始め、高級商店街チェルシー・テラスの全店輔を買収してゆく成功物語。モデルになっているのはロンドンのチェルシーに本店のある「ハロッズ」だそうです。生涯の天敵と奮闘する長い長い道のりがメインストーリーなのですが、伏線として第一次大戦で西部戦線に参加したり、政界で活躍したり、さまざまなサブストーリーを楽しめます。
詳細...
ロンドンの下町で貧しい野菜売りの家に生れたチャーリー・トランパーは、祖父から譲られた手押車を唯一の資本に商売を始めた。彼の夢は、高級商店街チェルシー・テラスの全店輔を買収することだった。第一次大戦が勃発し、出征したチャーリーは、生涯の敵ガイ・トレンザム大尉と出会う。やがて彼は、幼な馴染で共同経営者となったベッキーと、長く遠い苦難の道を歩み始めた…。
2004年09月09日
らんぼう
著者:大沢 在昌
出版社:新潮社
価格:¥ 620
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
暴力団系警察官
暴力団なのか警察官なのかよく分からない二人が主人公の短編集。
立場は警察官だが、相手が組や暴走族となると容赦がない。
無視された、と言ってベンツを蹴り飛ばす。
邪魔な車を森に突っ込ませる。
バイクを投げ捨てる。
ワケが分からないので、とりあえず殴っておく…。
全体的に面白いが、短編集なのでどうしても一話ずつの内容が薄くなる。
通勤通学途中で読む分に支障はないが、
家で読むには少し軽すぎる気がしないでもない。
お勧めランク:5
大笑い!
正直いって、大沢さんの作品で一番好きな作品です。
つまらない事件を「めんどくせえ~」とうめきながら片付けていく2人の姿が、実に爽快でした。
時に笑い、時にしみじみし、時にほろっとくるような色んなタイプの話があり、ラスト、本当にブホォッ!と噴き出してしまったのもありました。
新宿鮫のようなスケールのでかい事件は一切ないので、それを期待することはできませんが、登場人物の人間味や辛気臭~い街の描写は、さすが大沢在昌!という感じを受けました。
通学・通勤のお供におひとつ、ぜひどうぞ。
お勧めランク:3
本当に危ない刑事?
危ない刑事を、もっと危なくしちゃった、
刑事のコンビが活躍する、コメディっぽいハードボイルドものです。
ちょっと、アクが強いので、好みが別れる作品だと思います。
個人的には、二人の暴走ぶりが痛くて、ダメでした (--)
詳細...
185センチ・柔道部出身の「ウラ」、小柄ながら空手有段者の「イケ」。凸凹刑事コンビの共通点はキレやすく凶暴なこと。検挙率は署内トップだが無傷で彼らに逮捕された被疑者はいない。ヤクザもゾクもシャブ中も、彼らの鉄拳の前ではただ怖れをなすばかり。情け無用、ケンカ上等、懲戒免職も何のその!「最凶最悪コンビ」が暴走する痛快無比の10篇。
目次
ちきこん
ぴーひゃらら
がんがらがん
ほろほろり
ころころり
おっとっと
しとしとり
てんてんてん
あちこちら
ばらばらり
らんぼう
著者:大沢 在昌
出版社:新潮社
価格:¥ 620
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
暴力団系警察官
暴力団なのか警察官なのかよく分からない二人が主人公の短編集。
立場は警察官だが、相手が組や暴走族となると容赦がない。
無視された、と言ってベンツを蹴り飛ばす。
邪魔な車を森に突っ込ませる。
バイクを投げ捨てる。
ワケが分からないので、とりあえず殴っておく…。
全体的に面白いが、短編集なのでどうしても一話ずつの内容が薄くなる。
通勤通学途中で読む分に支障はないが、
家で読むには少し軽すぎる気がしないでもない。
お勧めランク:5
大笑い!
正直いって、大沢さんの作品で一番好きな作品です。
つまらない事件を「めんどくせえ~」とうめきながら片付けていく2人の姿が、実に爽快でした。
時に笑い、時にしみじみし、時にほろっとくるような色んなタイプの話があり、ラスト、本当にブホォッ!と噴き出してしまったのもありました。
新宿鮫のようなスケールのでかい事件は一切ないので、それを期待することはできませんが、登場人物の人間味や辛気臭~い街の描写は、さすが大沢在昌!という感じを受けました。
通学・通勤のお供におひとつ、ぜひどうぞ。
お勧めランク:3
本当に危ない刑事?
危ない刑事を、もっと危なくしちゃった、
刑事のコンビが活躍する、コメディっぽいハードボイルドものです。
ちょっと、アクが強いので、好みが別れる作品だと思います。
個人的には、二人の暴走ぶりが痛くて、ダメでした (--)
詳細...
185センチ・柔道部出身の「ウラ」、小柄ながら空手有段者の「イケ」。凸凹刑事コンビの共通点はキレやすく凶暴なこと。検挙率は署内トップだが無傷で彼らに逮捕された被疑者はいない。ヤクザもゾクもシャブ中も、彼らの鉄拳の前ではただ怖れをなすばかり。情け無用、ケンカ上等、懲戒免職も何のその!「最凶最悪コンビ」が暴走する痛快無比の10篇。
目次
ちきこん
ぴーひゃらら
がんがらがん
ほろほろり
ころころり
おっとっと
しとしとり
てんてんてん
あちこちら
ばらばらり
冬の鷹
著者:吉村 昭
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
光に背を向けた人生、光を目指した人生、
~オランダの医学書『ターヘル・アナトミア』を訳した『解体新書』
オランダ語を日本語に訳した満足な辞書もなく、師となる人もいない。
そのような時代に、いかにしてオランダの医学書が翻訳されたのか。
この本はそれを教えてくれる。
たぶん、多くの人がそうなのだろうと思うのだが、
~~
私は、『ターヘル・アナトミア』の訳業に前野良沢という人が中心的役割を担ったということを知らなかった。
もちろん、学校でもその名前を教えてもらった記憶は・・・、ない。
私の頭の中では、『解体新書』=杉田玄白だったのである。
そんな私が、みなもと太郎先生の『風雲児たち』で、初めて前野良沢を知った。
~~
『風雲児たち』の中の、前野良沢に男惚れをして、
彼をもっと詳しく知りたくて、買った本がこれなのだ。
訳業の中心的役割を担いながら、ついにその書に名を残さなかった前野良沢。
その書の刊行とともに、大医家への階段を駆け上がった杉田玄白。
その光と影のような対比の中に、二人の価値観、人生観が描かれる。
良沢八十一才、玄白八十五才。
~~
光に背を向けた人生と、光を目指した人生と言えるかもしれない。
人生の終焉における立場はまったく違ってしまったけれど、
それぞれの人生において、きっと幸せであったに違いない。
「誠に櫓舵なき船の、大海に乗り出だせしが如く・・・・」
この海に、果敢にも挑んだ人々に、感謝。~
お勧めランク:4
「判官贔屓」の危険性
みなもと太郎の名作コミック「風雲児たち」を読んでいたので、マイナーな題材であっても、すらすらと読めた。昭和40年代の作品にしては、文章も読みやすいと言える。
しかし、吉村昭氏の玄白と良沢の捉え方、描き方は、率直に言って共感出来なかった。
著者は、前野良沢の潔癖さ、ストイシズムを暖かく見つめているのに対し、杉田玄白の現実的、合理的な姿勢には、一貫して冷淡な視点を持している。感性は人それぞれの世界であり、著者の描き方もひとつの主観の世界である以上、全否定はしない。
ただ、判官贔屓が好きな日本人の性質を考えるとき、吉村昭氏の描き方は、むしろ「日本人ウケしやすい」書き方であり、それによって、杉田玄白の姿勢を、功利的とか打算的という言い方で割り切って卑小化しまう危険性を、私は危惧する。
医学上の優れた知識も発見も研究も、広く世間に発表されてこそ人々を救うことが出来るのであり、不完全な翻訳でも発表を急ぎ、発表の為に必要な政治的な準備を整えた杉田玄白の姿勢を、私は真に偉大だと思う。
心に理想の火を灯しつつ、現実の延長線上に着実に成果を築く姿勢こそ、古今東西を問わず英雄たる者の資質であるからだ。
作者はそういう玄白の姿勢を、良沢の眼を通して、「功名心」「名誉欲」という言葉で、卑小化してしまっている。理想も持たずして、徒に金銭や出世や名声を求めているのならば論外であるが、杉田玄白の85年の生涯を俯瞰するとき、そういった卑しさは全く感じない。
確かに、彼に語学の才能は無かった。解体新書の翻訳がほとんど前野良沢の独力に拠ったことも事実である。また、学究肌でもなく、優れたオルガナイザーに属する人物だった。しかし、決して低俗な人物ではなかった筈だ。
そのような人物であったなら、大槻玄沢をはじめ優れた門人を育て、当時明らかに危険視される可能性の高かった「蘭学」という新しい学問の砦を築き守れたはずがない。
ここに描かれる前野良沢の在りよう(=作者の視点)は、「清廉」というよりも偏執的な「狭さ」が感じさせられ、むしろ不愉快ですらある。勿論、前野良沢の生き方も人間のひとつの「美」の形であることは否定しない。ただ、それを評価することと、杉田玄白の姿勢を批判することは、全く別の問題であるはずだ。
お勧めランク:4
辞書のない翻訳のすごみ
本書の主人公「前野良沢」はオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を全くの手探りで訳出した人物である。
40歳を過ぎてオランダ語を体得しようと学習を始めた良沢だが、彼の才能と努力をしてでも江戸と長崎で得られた知識はわずか400語程度の語彙でしかなかった。
ある日、腑分け(解剖)に立ち会ったとき、刑死者の内臓が、ターヘル・アナトミアの解剖図と全く同じであることを目の当たりにして、なんとか翻訳を成し遂げたいと強く思うに至る。偶然、同じ原書を入手していた杉田玄白らと協力して翻訳作業をはじめるものの、ネイティブの講師がいるわけでも蘭日辞書があるわけでもない。わずかな頼りは数百語のボキャブラリーとほとんど理解できない仏蘭辞書のみ。「頭とは人体の最も上にあるもの」という一文を訳するだけで膨大な無駄と沈黙と迷走を経ている。その繰り返しは、太平洋を手こぎボートで横断するようなものであろうか。
進んだ西洋医術や文化を吸収し日本の発展の礎を築こうとするすざまじい迫力と根気には脱帽するばかりである。
良沢と玄白という二人の蘭医の生き様の対比が小説としての魅力になっているが、同時に、日本における技術翻訳の原点を見るという意味でも大変興味深い作品となっている。
詳細...
冬の鷹
著者:吉村 昭
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
光に背を向けた人生、光を目指した人生、
~オランダの医学書『ターヘル・アナトミア』を訳した『解体新書』
オランダ語を日本語に訳した満足な辞書もなく、師となる人もいない。
そのような時代に、いかにしてオランダの医学書が翻訳されたのか。
この本はそれを教えてくれる。
たぶん、多くの人がそうなのだろうと思うのだが、
~~
私は、『ターヘル・アナトミア』の訳業に前野良沢という人が中心的役割を担ったということを知らなかった。
もちろん、学校でもその名前を教えてもらった記憶は・・・、ない。
私の頭の中では、『解体新書』=杉田玄白だったのである。
そんな私が、みなもと太郎先生の『風雲児たち』で、初めて前野良沢を知った。
~~
『風雲児たち』の中の、前野良沢に男惚れをして、
彼をもっと詳しく知りたくて、買った本がこれなのだ。
訳業の中心的役割を担いながら、ついにその書に名を残さなかった前野良沢。
その書の刊行とともに、大医家への階段を駆け上がった杉田玄白。
その光と影のような対比の中に、二人の価値観、人生観が描かれる。
良沢八十一才、玄白八十五才。
~~
光に背を向けた人生と、光を目指した人生と言えるかもしれない。
人生の終焉における立場はまったく違ってしまったけれど、
それぞれの人生において、きっと幸せであったに違いない。
「誠に櫓舵なき船の、大海に乗り出だせしが如く・・・・」
この海に、果敢にも挑んだ人々に、感謝。~
お勧めランク:4
「判官贔屓」の危険性
みなもと太郎の名作コミック「風雲児たち」を読んでいたので、マイナーな題材であっても、すらすらと読めた。昭和40年代の作品にしては、文章も読みやすいと言える。
しかし、吉村昭氏の玄白と良沢の捉え方、描き方は、率直に言って共感出来なかった。
著者は、前野良沢の潔癖さ、ストイシズムを暖かく見つめているのに対し、杉田玄白の現実的、合理的な姿勢には、一貫して冷淡な視点を持している。感性は人それぞれの世界であり、著者の描き方もひとつの主観の世界である以上、全否定はしない。
ただ、判官贔屓が好きな日本人の性質を考えるとき、吉村昭氏の描き方は、むしろ「日本人ウケしやすい」書き方であり、それによって、杉田玄白の姿勢を、功利的とか打算的という言い方で割り切って卑小化しまう危険性を、私は危惧する。
医学上の優れた知識も発見も研究も、広く世間に発表されてこそ人々を救うことが出来るのであり、不完全な翻訳でも発表を急ぎ、発表の為に必要な政治的な準備を整えた杉田玄白の姿勢を、私は真に偉大だと思う。
心に理想の火を灯しつつ、現実の延長線上に着実に成果を築く姿勢こそ、古今東西を問わず英雄たる者の資質であるからだ。
作者はそういう玄白の姿勢を、良沢の眼を通して、「功名心」「名誉欲」という言葉で、卑小化してしまっている。理想も持たずして、徒に金銭や出世や名声を求めているのならば論外であるが、杉田玄白の85年の生涯を俯瞰するとき、そういった卑しさは全く感じない。
確かに、彼に語学の才能は無かった。解体新書の翻訳がほとんど前野良沢の独力に拠ったことも事実である。また、学究肌でもなく、優れたオルガナイザーに属する人物だった。しかし、決して低俗な人物ではなかった筈だ。
そのような人物であったなら、大槻玄沢をはじめ優れた門人を育て、当時明らかに危険視される可能性の高かった「蘭学」という新しい学問の砦を築き守れたはずがない。
ここに描かれる前野良沢の在りよう(=作者の視点)は、「清廉」というよりも偏執的な「狭さ」が感じさせられ、むしろ不愉快ですらある。勿論、前野良沢の生き方も人間のひとつの「美」の形であることは否定しない。ただ、それを評価することと、杉田玄白の姿勢を批判することは、全く別の問題であるはずだ。
お勧めランク:4
辞書のない翻訳のすごみ
本書の主人公「前野良沢」はオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を全くの手探りで訳出した人物である。
40歳を過ぎてオランダ語を体得しようと学習を始めた良沢だが、彼の才能と努力をしてでも江戸と長崎で得られた知識はわずか400語程度の語彙でしかなかった。
ある日、腑分け(解剖)に立ち会ったとき、刑死者の内臓が、ターヘル・アナトミアの解剖図と全く同じであることを目の当たりにして、なんとか翻訳を成し遂げたいと強く思うに至る。偶然、同じ原書を入手していた杉田玄白らと協力して翻訳作業をはじめるものの、ネイティブの講師がいるわけでも蘭日辞書があるわけでもない。わずかな頼りは数百語のボキャブラリーとほとんど理解できない仏蘭辞書のみ。「頭とは人体の最も上にあるもの」という一文を訳するだけで膨大な無駄と沈黙と迷走を経ている。その繰り返しは、太平洋を手こぎボートで横断するようなものであろうか。
進んだ西洋医術や文化を吸収し日本の発展の礎を築こうとするすざまじい迫力と根気には脱帽するばかりである。
良沢と玄白という二人の蘭医の生き様の対比が小説としての魅力になっているが、同時に、日本における技術翻訳の原点を見るという意味でも大変興味深い作品となっている。
詳細...
冬の鷹
著者:吉村 昭
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
光に背を向けた人生、光を目指した人生、
~オランダの医学書『ターヘル・アナトミア』を訳した『解体新書』
オランダ語を日本語に訳した満足な辞書もなく、師となる人もいない。
そのような時代に、いかにしてオランダの医学書が翻訳されたのか。
この本はそれを教えてくれる。
たぶん、多くの人がそうなのだろうと思うのだが、
~~
私は、『ターヘル・アナトミア』の訳業に前野良沢という人が中心的役割を担ったということを知らなかった。
もちろん、学校でもその名前を教えてもらった記憶は・・・、ない。
私の頭の中では、『解体新書』=杉田玄白だったのである。
そんな私が、みなもと太郎先生の『風雲児たち』で、初めて前野良沢を知った。
~~
『風雲児たち』の中の、前野良沢に男惚れをして、
彼をもっと詳しく知りたくて、買った本がこれなのだ。
訳業の中心的役割を担いながら、ついにその書に名を残さなかった前野良沢。
その書の刊行とともに、大医家への階段を駆け上がった杉田玄白。
その光と影のような対比の中に、二人の価値観、人生観が描かれる。
良沢八十一才、玄白八十五才。
~~
光に背を向けた人生と、光を目指した人生と言えるかもしれない。
人生の終焉における立場はまったく違ってしまったけれど、
それぞれの人生において、きっと幸せであったに違いない。
「誠に櫓舵なき船の、大海に乗り出だせしが如く・・・・」
この海に、果敢にも挑んだ人々に、感謝。~
お勧めランク:4
「判官贔屓」の危険性
みなもと太郎の名作コミック「風雲児たち」を読んでいたので、マイナーな題材であっても、すらすらと読めた。昭和40年代の作品にしては、文章も読みやすいと言える。
しかし、吉村昭氏の玄白と良沢の捉え方、描き方は、率直に言って共感出来なかった。
著者は、前野良沢の潔癖さ、ストイシズムを暖かく見つめているのに対し、杉田玄白の現実的、合理的な姿勢には、一貫して冷淡な視点を持している。感性は人それぞれの世界であり、著者の描き方もひとつの主観の世界である以上、全否定はしない。
ただ、判官贔屓が好きな日本人の性質を考えるとき、吉村昭氏の描き方は、むしろ「日本人ウケしやすい」書き方であり、それによって、杉田玄白の姿勢を、功利的とか打算的という言い方で割り切って卑小化しまう危険性を、私は危惧する。
医学上の優れた知識も発見も研究も、広く世間に発表されてこそ人々を救うことが出来るのであり、不完全な翻訳でも発表を急ぎ、発表の為に必要な政治的な準備を整えた杉田玄白の姿勢を、私は真に偉大だと思う。
心に理想の火を灯しつつ、現実の延長線上に着実に成果を築く姿勢こそ、古今東西を問わず英雄たる者の資質であるからだ。
作者はそういう玄白の姿勢を、良沢の眼を通して、「功名心」「名誉欲」という言葉で、卑小化してしまっている。理想も持たずして、徒に金銭や出世や名声を求めているのならば論外であるが、杉田玄白の85年の生涯を俯瞰するとき、そういった卑しさは全く感じない。
確かに、彼に語学の才能は無かった。解体新書の翻訳がほとんど前野良沢の独力に拠ったことも事実である。また、学究肌でもなく、優れたオルガナイザーに属する人物だった。しかし、決して低俗な人物ではなかった筈だ。
そのような人物であったなら、大槻玄沢をはじめ優れた門人を育て、当時明らかに危険視される可能性の高かった「蘭学」という新しい学問の砦を築き守れたはずがない。
ここに描かれる前野良沢の在りよう(=作者の視点)は、「清廉」というよりも偏執的な「狭さ」が感じさせられ、むしろ不愉快ですらある。勿論、前野良沢の生き方も人間のひとつの「美」の形であることは否定しない。ただ、それを評価することと、杉田玄白の姿勢を批判することは、全く別の問題であるはずだ。
お勧めランク:4
辞書のない翻訳のすごみ
本書の主人公「前野良沢」はオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を全くの手探りで訳出した人物である。
40歳を過ぎてオランダ語を体得しようと学習を始めた良沢だが、彼の才能と努力をしてでも江戸と長崎で得られた知識はわずか400語程度の語彙でしかなかった。
ある日、腑分け(解剖)に立ち会ったとき、刑死者の内臓が、ターヘル・アナトミアの解剖図と全く同じであることを目の当たりにして、なんとか翻訳を成し遂げたいと強く思うに至る。偶然、同じ原書を入手していた杉田玄白らと協力して翻訳作業をはじめるものの、ネイティブの講師がいるわけでも蘭日辞書があるわけでもない。わずかな頼りは数百語のボキャブラリーとほとんど理解できない仏蘭辞書のみ。「頭とは人体の最も上にあるもの」という一文を訳するだけで膨大な無駄と沈黙と迷走を経ている。その繰り返しは、太平洋を手こぎボートで横断するようなものであろうか。
進んだ西洋医術や文化を吸収し日本の発展の礎を築こうとするすざまじい迫力と根気には脱帽するばかりである。
良沢と玄白という二人の蘭医の生き様の対比が小説としての魅力になっているが、同時に、日本における技術翻訳の原点を見るという意味でも大変興味深い作品となっている。
詳細...
冬の鷹
著者:吉村 昭
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
光に背を向けた人生、光を目指した人生、
~オランダの医学書『ターヘル・アナトミア』を訳した『解体新書』
オランダ語を日本語に訳した満足な辞書もなく、師となる人もいない。
そのような時代に、いかにしてオランダの医学書が翻訳されたのか。
この本はそれを教えてくれる。
たぶん、多くの人がそうなのだろうと思うのだが、
~~
私は、『ターヘル・アナトミア』の訳業に前野良沢という人が中心的役割を担ったということを知らなかった。
もちろん、学校でもその名前を教えてもらった記憶は・・・、ない。
私の頭の中では、『解体新書』=杉田玄白だったのである。
そんな私が、みなもと太郎先生の『風雲児たち』で、初めて前野良沢を知った。
~~
『風雲児たち』の中の、前野良沢に男惚れをして、
彼をもっと詳しく知りたくて、買った本がこれなのだ。
訳業の中心的役割を担いながら、ついにその書に名を残さなかった前野良沢。
その書の刊行とともに、大医家への階段を駆け上がった杉田玄白。
その光と影のような対比の中に、二人の価値観、人生観が描かれる。
良沢八十一才、玄白八十五才。
~~
光に背を向けた人生と、光を目指した人生と言えるかもしれない。
人生の終焉における立場はまったく違ってしまったけれど、
それぞれの人生において、きっと幸せであったに違いない。
「誠に櫓舵なき船の、大海に乗り出だせしが如く・・・・」
この海に、果敢にも挑んだ人々に、感謝。~
お勧めランク:4
「判官贔屓」の危険性
みなもと太郎の名作コミック「風雲児たち」を読んでいたので、マイナーな題材であっても、すらすらと読めた。昭和40年代の作品にしては、文章も読みやすいと言える。
しかし、吉村昭氏の玄白と良沢の捉え方、描き方は、率直に言って共感出来なかった。
著者は、前野良沢の潔癖さ、ストイシズムを暖かく見つめているのに対し、杉田玄白の現実的、合理的な姿勢には、一貫して冷淡な視点を持している。感性は人それぞれの世界であり、著者の描き方もひとつの主観の世界である以上、全否定はしない。
ただ、判官贔屓が好きな日本人の性質を考えるとき、吉村昭氏の描き方は、むしろ「日本人ウケしやすい」書き方であり、それによって、杉田玄白の姿勢を、功利的とか打算的という言い方で割り切って卑小化しまう危険性を、私は危惧する。
医学上の優れた知識も発見も研究も、広く世間に発表されてこそ人々を救うことが出来るのであり、不完全な翻訳でも発表を急ぎ、発表の為に必要な政治的な準備を整えた杉田玄白の姿勢を、私は真に偉大だと思う。
心に理想の火を灯しつつ、現実の延長線上に着実に成果を築く姿勢こそ、古今東西を問わず英雄たる者の資質であるからだ。
作者はそういう玄白の姿勢を、良沢の眼を通して、「功名心」「名誉欲」という言葉で、卑小化してしまっている。理想も持たずして、徒に金銭や出世や名声を求めているのならば論外であるが、杉田玄白の85年の生涯を俯瞰するとき、そういった卑しさは全く感じない。
確かに、彼に語学の才能は無かった。解体新書の翻訳がほとんど前野良沢の独力に拠ったことも事実である。また、学究肌でもなく、優れたオルガナイザーに属する人物だった。しかし、決して低俗な人物ではなかった筈だ。
そのような人物であったなら、大槻玄沢をはじめ優れた門人を育て、当時明らかに危険視される可能性の高かった「蘭学」という新しい学問の砦を築き守れたはずがない。
ここに描かれる前野良沢の在りよう(=作者の視点)は、「清廉」というよりも偏執的な「狭さ」が感じさせられ、むしろ不愉快ですらある。勿論、前野良沢の生き方も人間のひとつの「美」の形であることは否定しない。ただ、それを評価することと、杉田玄白の姿勢を批判することは、全く別の問題であるはずだ。
お勧めランク:4
辞書のない翻訳のすごみ
本書の主人公「前野良沢」はオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を全くの手探りで訳出した人物である。
40歳を過ぎてオランダ語を体得しようと学習を始めた良沢だが、彼の才能と努力をしてでも江戸と長崎で得られた知識はわずか400語程度の語彙でしかなかった。
ある日、腑分け(解剖)に立ち会ったとき、刑死者の内臓が、ターヘル・アナトミアの解剖図と全く同じであることを目の当たりにして、なんとか翻訳を成し遂げたいと強く思うに至る。偶然、同じ原書を入手していた杉田玄白らと協力して翻訳作業をはじめるものの、ネイティブの講師がいるわけでも蘭日辞書があるわけでもない。わずかな頼りは数百語のボキャブラリーとほとんど理解できない仏蘭辞書のみ。「頭とは人体の最も上にあるもの」という一文を訳するだけで膨大な無駄と沈黙と迷走を経ている。その繰り返しは、太平洋を手こぎボートで横断するようなものであろうか。
進んだ西洋医術や文化を吸収し日本の発展の礎を築こうとするすざまじい迫力と根気には脱帽するばかりである。
良沢と玄白という二人の蘭医の生き様の対比が小説としての魅力になっているが、同時に、日本における技術翻訳の原点を見るという意味でも大変興味深い作品となっている。
詳細...
冬の鷹
著者:吉村 昭
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
光に背を向けた人生、光を目指した人生、
~オランダの医学書『ターヘル・アナトミア』を訳した『解体新書』
オランダ語を日本語に訳した満足な辞書もなく、師となる人もいない。
そのような時代に、いかにしてオランダの医学書が翻訳されたのか。
この本はそれを教えてくれる。
たぶん、多くの人がそうなのだろうと思うのだが、
~~
私は、『ターヘル・アナトミア』の訳業に前野良沢という人が中心的役割を担ったということを知らなかった。
もちろん、学校でもその名前を教えてもらった記憶は・・・、ない。
私の頭の中では、『解体新書』=杉田玄白だったのである。
そんな私が、みなもと太郎先生の『風雲児たち』で、初めて前野良沢を知った。
~~
『風雲児たち』の中の、前野良沢に男惚れをして、
彼をもっと詳しく知りたくて、買った本がこれなのだ。
訳業の中心的役割を担いながら、ついにその書に名を残さなかった前野良沢。
その書の刊行とともに、大医家への階段を駆け上がった杉田玄白。
その光と影のような対比の中に、二人の価値観、人生観が描かれる。
良沢八十一才、玄白八十五才。
~~
光に背を向けた人生と、光を目指した人生と言えるかもしれない。
人生の終焉における立場はまったく違ってしまったけれど、
それぞれの人生において、きっと幸せであったに違いない。
「誠に櫓舵なき船の、大海に乗り出だせしが如く・・・・」
この海に、果敢にも挑んだ人々に、感謝。~
お勧めランク:4
「判官贔屓」の危険性
みなもと太郎の名作コミック「風雲児たち」を読んでいたので、マイナーな題材であっても、すらすらと読めた。昭和40年代の作品にしては、文章も読みやすいと言える。
しかし、吉村昭氏の玄白と良沢の捉え方、描き方は、率直に言って共感出来なかった。
著者は、前野良沢の潔癖さ、ストイシズムを暖かく見つめているのに対し、杉田玄白の現実的、合理的な姿勢には、一貫して冷淡な視点を持している。感性は人それぞれの世界であり、著者の描き方もひとつの主観の世界である以上、全否定はしない。
ただ、判官贔屓が好きな日本人の性質を考えるとき、吉村昭氏の描き方は、むしろ「日本人ウケしやすい」書き方であり、それによって、杉田玄白の姿勢を、功利的とか打算的という言い方で割り切って卑小化しまう危険性を、私は危惧する。
医学上の優れた知識も発見も研究も、広く世間に発表されてこそ人々を救うことが出来るのであり、不完全な翻訳でも発表を急ぎ、発表の為に必要な政治的な準備を整えた杉田玄白の姿勢を、私は真に偉大だと思う。
心に理想の火を灯しつつ、現実の延長線上に着実に成果を築く姿勢こそ、古今東西を問わず英雄たる者の資質であるからだ。
作者はそういう玄白の姿勢を、良沢の眼を通して、「功名心」「名誉欲」という言葉で、卑小化してしまっている。理想も持たずして、徒に金銭や出世や名声を求めているのならば論外であるが、杉田玄白の85年の生涯を俯瞰するとき、そういった卑しさは全く感じない。
確かに、彼に語学の才能は無かった。解体新書の翻訳がほとんど前野良沢の独力に拠ったことも事実である。また、学究肌でもなく、優れたオルガナイザーに属する人物だった。しかし、決して低俗な人物ではなかった筈だ。
そのような人物であったなら、大槻玄沢をはじめ優れた門人を育て、当時明らかに危険視される可能性の高かった「蘭学」という新しい学問の砦を築き守れたはずがない。
ここに描かれる前野良沢の在りよう(=作者の視点)は、「清廉」というよりも偏執的な「狭さ」が感じさせられ、むしろ不愉快ですらある。勿論、前野良沢の生き方も人間のひとつの「美」の形であることは否定しない。ただ、それを評価することと、杉田玄白の姿勢を批判することは、全く別の問題であるはずだ。
お勧めランク:4
辞書のない翻訳のすごみ
本書の主人公「前野良沢」はオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を全くの手探りで訳出した人物である。
40歳を過ぎてオランダ語を体得しようと学習を始めた良沢だが、彼の才能と努力をしてでも江戸と長崎で得られた知識はわずか400語程度の語彙でしかなかった。
ある日、腑分け(解剖)に立ち会ったとき、刑死者の内臓が、ターヘル・アナトミアの解剖図と全く同じであることを目の当たりにして、なんとか翻訳を成し遂げたいと強く思うに至る。偶然、同じ原書を入手していた杉田玄白らと協力して翻訳作業をはじめるものの、ネイティブの講師がいるわけでも蘭日辞書があるわけでもない。わずかな頼りは数百語のボキャブラリーとほとんど理解できない仏蘭辞書のみ。「頭とは人体の最も上にあるもの」という一文を訳するだけで膨大な無駄と沈黙と迷走を経ている。その繰り返しは、太平洋を手こぎボートで横断するようなものであろうか。
進んだ西洋医術や文化を吸収し日本の発展の礎を築こうとするすざまじい迫力と根気には脱帽するばかりである。
良沢と玄白という二人の蘭医の生き様の対比が小説としての魅力になっているが、同時に、日本における技術翻訳の原点を見るという意味でも大変興味深い作品となっている。
詳細...
日々の泡
著者:ボリス・ヴィアン 曾根 元吉
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
芸術家ヴィアン
これは、いままで読んだ本の中でも3本の指に入る奇妙な作品でした。まず、その世界観が目を引きます。例えば開巻早々、主人公のコランが身支度している場面で、彼が拡大鏡に顔を映すと鼻翼のニキビがおのれの醜いさまを恥じて皮膚の下に逃げ込んでしまうし、洗面台の蛇口からはウナギが這い出してくるし、台所の電気オーヴンの調節メモリは『ほぼよろし』と『ちょうどよろし』になってるし、演奏する曲によって様々なカクテルを調合するカクテルピアノなんてのが出てくるし、と、こんな具合にヴィアンの創造する世界は、ファンタジーとも童話とも違う独特の世界になっているんです。
この珍SF的な、いってみればどことなくユーモラスな世界にヴィアンは唐突に残酷な出来事をからめていきます。大勢の人が簡単に死んでしまうし、ラストの貧しい葬儀の場面等はほんとに痛ましくて胸にせまります。この両極端である諧謔味と残酷さが変な具合にシャッフルされてとてもシュールな印象を受けます。頭で理解するより先に心が反応するような感じでしょうか。
そんな奇妙な世界で三組のカップルの様々な試練が描かれます。物語の終盤へ向けて、陽気な音楽が次第に音を外していくように彼らの運命は悲しみの一途を辿ります。
うう~む、もうヴィアンはこの1作でおなか一杯って感じなのですが、かといって否定する気もない。いいか悪いかと問われれば、6:4でいいという感じでしょうかね。どうにも奥歯にモノがつまった感じだ。隔靴掻痒的ともいえます。とてもビミョー。どちらにせよ、ボリス・ヴィアンという人は、常人離れした芸術家肌の人だったんだなぁと強く思いました。
お勧めランク:4
初めてボリス・ヴィアンの本を手にする方
恋愛小説が好きな方。また、ファンタジーも同時に好きな方。
心が強い方。真っ直ぐに生きている方。
フランス文学が好きな方。映画はプリティウーマンより、アメリだという方。
最近失恋したという方。愛というものを知っている方。
パリに行った事がある方。ピュアなものが好きな方。
ちょっと変わった恋愛小説が読んでみたい方。
「不思議の国のアリス」の世界観が好きな方。
このどれかに当てはまる方。お勧めです。
この本は、悲痛な恋愛小説です。もし、今恋をして幸せな方は読まないほうがいいかもしれません。
とても心に残る印象的なお話。一度読んだら忘れられない悲惨な病気が出てきます。
しかし、この本には幻想的な空気感みたいなものが漂い「リアル」に感じないのも事実。それゆえひたすら美しく、キラキラ光るほど純粋な物語である。
このレビューで興味を持った方。他に素晴らしいレビューを書いている方々がいるのでそれを参考にして下さい。
お勧めランク:5
偽りなく、最も悲痛な恋愛小説
既成概念で凝り固まった文学にクエスチョンマークを遺した人物は多いけれど、感嘆符を遺したのはこの人だけではないだろうか。偽訳などの前科がありながら、彼はこの作品で文学よりも言語に挑戦状を叩き付けた。アナグラムやだじゃれ(もちろんフランス語)や擬人化などを連続的に炸裂しつづけ、読む人をフィクションの世界へと導いていく。愛する女性の肺の中に花が咲く、お金がなくなると住まいもちいさくなっていく、といった想像力を駆使した非現実の世界。しかしそのように描かれているのは、偽悪者である彼が本音を知られるのが恥ずかしかったからだ。その、時折見える純粋さ、女性を愛する男の気持ちが、非現実の世界だからこそ美しく、悲痛なものとして鮮やかに浮かび上がってくる。その子供のような一途さに、読むと心をうたれる。
アメリカに行ったことなどない彼の手によるまえがきとあとがきも傑作。それでこそボリス。タイトルも早川版より断然こっち。
死んでから数年後にフランス国内で50万部の大ヒット。前科がある彼を、生前マスコミは作家と認めなかった。
一応代表作なのでこれにレビューを書きますが「アンダンの騒乱」「墓に唾をかけろ」「北京の秋」を合わせた4つが私のベストです。
詳細...
愛を語り、友情を交わし、人生の夢を追う、三組の恋人たち―純情無垢のコランと彼の繊細な恋人のクロエ。愛するシックを魅了し狂わせる思想家の殺害をもくろむ情熱の女アリーズ。料理のアーティストのニコラと彼のキュートな恋人のイジス。人生の不条理への怒りと自由奔放な幻想を結晶させた永遠の青春小説。「20世紀の恋愛小説中もっとも悲痛な小説」と評される最高傑作。
冬の鷹
著者:吉村 昭
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
光に背を向けた人生、光を目指した人生、
~オランダの医学書『ターヘル・アナトミア』を訳した『解体新書』
オランダ語を日本語に訳した満足な辞書もなく、師となる人もいない。
そのような時代に、いかにしてオランダの医学書が翻訳されたのか。
この本はそれを教えてくれる。
たぶん、多くの人がそうなのだろうと思うのだが、
~~
私は、『ターヘル・アナトミア』の訳業に前野良沢という人が中心的役割を担ったということを知らなかった。
もちろん、学校でもその名前を教えてもらった記憶は・・・、ない。
私の頭の中では、『解体新書』=杉田玄白だったのである。
そんな私が、みなもと太郎先生の『風雲児たち』で、初めて前野良沢を知った。
~~
『風雲児たち』の中の、前野良沢に男惚れをして、
彼をもっと詳しく知りたくて、買った本がこれなのだ。
訳業の中心的役割を担いながら、ついにその書に名を残さなかった前野良沢。
その書の刊行とともに、大医家への階段を駆け上がった杉田玄白。
その光と影のような対比の中に、二人の価値観、人生観が描かれる。
良沢八十一才、玄白八十五才。
~~
光に背を向けた人生と、光を目指した人生と言えるかもしれない。
人生の終焉における立場はまったく違ってしまったけれど、
それぞれの人生において、きっと幸せであったに違いない。
「誠に櫓舵なき船の、大海に乗り出だせしが如く・・・・」
この海に、果敢にも挑んだ人々に、感謝。~
お勧めランク:4
「判官贔屓」の危険性
みなもと太郎の名作コミック「風雲児たち」を読んでいたので、マイナーな題材であっても、すらすらと読めた。昭和40年代の作品にしては、文章も読みやすいと言える。
しかし、吉村昭氏の玄白と良沢の捉え方、描き方は、率直に言って共感出来なかった。
著者は、前野良沢の潔癖さ、ストイシズムを暖かく見つめているのに対し、杉田玄白の現実的、合理的な姿勢には、一貫して冷淡な視点を持している。感性は人それぞれの世界であり、著者の描き方もひとつの主観の世界である以上、全否定はしない。
ただ、判官贔屓が好きな日本人の性質を考えるとき、吉村昭氏の描き方は、むしろ「日本人ウケしやすい」書き方であり、それによって、杉田玄白の姿勢を、功利的とか打算的という言い方で割り切って卑小化しまう危険性を、私は危惧する。
医学上の優れた知識も発見も研究も、広く世間に発表されてこそ人々を救うことが出来るのであり、不完全な翻訳でも発表を急ぎ、発表の為に必要な政治的な準備を整えた杉田玄白の姿勢を、私は真に偉大だと思う。
心に理想の火を灯しつつ、現実の延長線上に着実に成果を築く姿勢こそ、古今東西を問わず英雄たる者の資質であるからだ。
作者はそういう玄白の姿勢を、良沢の眼を通して、「功名心」「名誉欲」という言葉で、卑小化してしまっている。理想も持たずして、徒に金銭や出世や名声を求めているのならば論外であるが、杉田玄白の85年の生涯を俯瞰するとき、そういった卑しさは全く感じない。
確かに、彼に語学の才能は無かった。解体新書の翻訳がほとんど前野良沢の独力に拠ったことも事実である。また、学究肌でもなく、優れたオルガナイザーに属する人物だった。しかし、決して低俗な人物ではなかった筈だ。
そのような人物であったなら、大槻玄沢をはじめ優れた門人を育て、当時明らかに危険視される可能性の高かった「蘭学」という新しい学問の砦を築き守れたはずがない。
ここに描かれる前野良沢の在りよう(=作者の視点)は、「清廉」というよりも偏執的な「狭さ」が感じさせられ、むしろ不愉快ですらある。勿論、前野良沢の生き方も人間のひとつの「美」の形であることは否定しない。ただ、それを評価することと、杉田玄白の姿勢を批判することは、全く別の問題であるはずだ。
お勧めランク:4
辞書のない翻訳のすごみ
本書の主人公「前野良沢」はオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を全くの手探りで訳出した人物である。
40歳を過ぎてオランダ語を体得しようと学習を始めた良沢だが、彼の才能と努力をしてでも江戸と長崎で得られた知識はわずか400語程度の語彙でしかなかった。
ある日、腑分け(解剖)に立ち会ったとき、刑死者の内臓が、ターヘル・アナトミアの解剖図と全く同じであることを目の当たりにして、なんとか翻訳を成し遂げたいと強く思うに至る。偶然、同じ原書を入手していた杉田玄白らと協力して翻訳作業をはじめるものの、ネイティブの講師がいるわけでも蘭日辞書があるわけでもない。わずかな頼りは数百語のボキャブラリーとほとんど理解できない仏蘭辞書のみ。「頭とは人体の最も上にあるもの」という一文を訳するだけで膨大な無駄と沈黙と迷走を経ている。その繰り返しは、太平洋を手こぎボートで横断するようなものであろうか。
進んだ西洋医術や文化を吸収し日本の発展の礎を築こうとするすざまじい迫力と根気には脱帽するばかりである。
良沢と玄白という二人の蘭医の生き様の対比が小説としての魅力になっているが、同時に、日本における技術翻訳の原点を見るという意味でも大変興味深い作品となっている。
詳細...
日々の泡
著者:ボリス・ヴィアン 曾根 元吉
出版社:新潮社
価格:¥ 580
●この本のお勧めポイント
お勧めランク:4
芸術家ヴィアン
これは、いままで読んだ本の中でも3本の指に入る奇妙な作品でした。まず、その世界観が目を引きます。例えば開巻早々、主人公のコランが身支度している場面で、彼が拡大鏡に顔を映すと鼻翼のニキビがおのれの醜いさまを恥じて皮膚の下に逃げ込んでしまうし、洗面台の蛇口からはウナギが這い出してくるし、台所の電気オーヴンの調節メモリは『ほぼよろし』と『ちょうどよろし』になってるし、演奏する曲によって様々なカクテルを調合するカクテルピアノなんてのが出てくるし、と、こんな具合にヴィアンの創造する世界は、ファンタジーとも童話とも違う独特の世界になっているんです。
この珍SF的な、いってみればどことなくユーモラスな世界にヴィアンは唐突に残酷な出来事をからめていきます。大勢の人が簡単に死んでしまうし、ラストの貧しい葬儀の場面等はほんとに痛ましくて胸にせまります。この両極端である諧謔味と残酷さが変な具合にシャッフルされてとてもシュールな印象を受けます。頭で理解するより先に心が反応するような感じでしょうか。
そんな奇妙な世界で三組のカップルの様々な試練が描かれます。物語の終盤へ向けて、陽気な音楽が次第に音を外していくように彼らの運命は悲しみの一途を辿ります。
うう~む、もうヴィアンはこの1作でおなか一杯って感じなのですが、かといって否定する気もない。いいか悪いかと問われれば、6:4でいいという感じでしょうかね。どうにも奥歯にモノがつまった感じだ。隔靴掻痒的ともいえます。とてもビミョー。どちらにせよ、ボリス・ヴィアンという人は、常人離れした芸術家肌の人だったんだなぁと強く思いました。
お勧めランク:4
初めてボリス・ヴィアンの本を手にする方
恋愛小説が好きな方。また、ファンタジーも同時に好きな方。
心が強い方。真っ直ぐに生きている方。
フランス文学が好きな方。映画はプリティウーマンより、アメリだという方。
最近失恋したという方。愛というものを知っている方。
パリに行った事がある方。ピュアなものが好きな方。
ちょっと変わった恋愛小説が読んでみたい方。
「不思議の国のアリス」の世界観が好きな方。
このどれかに当てはまる方。お勧めです。
この本は、悲痛な恋愛小説です。もし、今恋をして幸せな方は読まないほうがいいかもしれません。
とても心に残る印象的なお話。一度読んだら忘れられない悲惨な病気が出てきます。
しかし、この本には幻想的な空気感みたいなものが漂い「リアル」に感じないのも事実。それゆえひたすら美しく、キラキラ光るほど純粋な物語である。
このレビューで興味を持った方。他に素晴らしいレビューを書いている方々がいるのでそれを参考にして下さい。
お勧めランク:5
偽りなく、最も悲痛な恋愛小説
既成概念で凝り固まった文学にクエスチョンマークを遺した人物は多いけれど、感嘆符を遺したのはこの人だけではないだろうか。偽訳などの前科がありながら、彼はこの作品で文学よりも言語に挑戦状を叩き付けた。アナグラムやだじゃれ(もちろんフランス語)や擬人化などを連続的に炸裂しつづけ、読む人をフィクションの世界へと導いていく。愛する女性の肺の中に花が咲く、お金がなくなると住まいもちいさくなっていく、といった想像力を駆使した非現実の世界。しかしそのように描かれているのは、偽悪者である彼が本音を知られるのが恥ずかしかったからだ。その、時折見える純粋さ、女性を愛する男の気持ちが、非現実の世界だからこそ美しく、悲痛なものとして鮮やかに浮かび上がってくる。その子供のような一途さに、読むと心をうたれる。
アメリカに行ったことなどない彼の手によるまえがきとあとがきも傑作。それでこそボリス。タイトルも早川版より断然こっち。
死んでから数年後にフランス国内で50万部の大ヒット。前科がある彼を、生前マスコミは作家と認めなかった。
一応代表作なのでこれにレビューを書きますが「アンダンの騒乱」「墓に唾をかけろ」「北京の秋」を合わせた4つが私のベストです。
詳細...
愛を語り、友情を交わし、人生の夢を追う、三組の恋人たち―純情無垢のコランと彼の繊細な恋人のクロエ。愛するシックを魅了し狂わせる思想家の殺害をもくろむ情熱の女アリーズ。料理のアーティストのニコラと彼のキュートな恋人のイジス。人生の不条理への怒りと自由奔放な幻想を結晶させた永遠の青春小説。「20世紀の恋愛小説中もっとも悲痛な小説」と評される最高傑作。




